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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1891号 判決 1970年9月30日

川崎市○○×丁目××番地○○荘内

第一審原告(昭和四三年(ネ)第一八四四号事件被控訴人、附帯控訴人) 山田秋子

<ほか四名>

以上五名訴訟代理人弁護士 中村洋二郎

<ほか三四名>

東京都葛飾区○○×丁目××番×号

第一審原告(昭和四三年(ネ)第一八九一号事件控訴人) 太地茂

<ほか一名>

右二名訴訟代理人弁護士 中村洋二郎

同 井上文男

同 荒川晶彦

同 浜口武人

川崎市堀川町七二番地

第一審被告(昭和四三年(ネ)第一八四四号事件控訴人、同年(ネ)第一八九一号被控訴人、附帯被控訴人) 東京芝浦電気株式会社

右代表者代表取締役 土光敏夫

右訴訟代理人弁護士 鎌田英次

同 渡辺修

同 竹内桃太郎

右第一審被告(控訴人)東京芝浦電気株式会社、第一審原告(被控訴人)山田秋子、同(同)大城市子、同(同)佐多信一、同(同)三井恵子、同(同)近藤和子間の昭和四三年(ネ)第一八四四号労働契約存在確認等請求控訴、第一審原告(控訴人)太地茂、同(同)広田令子、第一審被告(被控訴人)東京芝浦電気株式会社間の昭和四三年(ネ)第一八九一号労働契約存在確認等請求控訴併合事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、第一審被告の第一審原告山田秋子、同大城市子、同佐多信一、同三井恵子、同近藤和子に対する控訴を棄却する。

二、前項の各第一審原告らの附帯控訴による請求拡張にもとづき、原判決主文第二項中右各第一審原告らに関する部分を次のとおり変更する。

1、第一審被告は第一審原告大城市子、同佐多信一、同三井恵子に対しそれぞれ別紙賃金表(三)の(B)欄中各該当部分記載の金員および昭和四三年九月以降職場復帰に至るまで毎月二六日かぎり別紙賃金表(四)の(C)欄中各該当部分記載の金員を支払え。

右第一審原告らその余の請求を棄却する。

2、第一審被告は第一審原告山田秋子同近藤和子に対し別紙賃金表(三)の(A)欄中各該当部分記載の金員および昭和四三年九月以降職場復帰に至るまで毎月二六日かぎり別紙賃金表(四)の(C)欄中各該当部分記載の金員を支払え。

右第一審原告らその余の請求を棄却する。

三、第一審原告太地茂の第一審被告に対する控訴および当審における拡張請求を棄却する。

四、第一審原告広田令子の控訴および請求拡張にもとづき

1、原判決中同第一審原告に関する部分を取消す。

2、同第一審原告が第一審被告に対し雇傭契約上の権利を有することを確認する。

3、第一審被告は同第一審原告に対し別紙賃金表(三)の(B)欄中該当部分記載の金員および昭和四三年九月以降職場復帰に至るまで毎月二六日かぎり別紙賃金表(四)の(C)欄中該当部分記載の金員を支払え。

4、同第一審原告その余の請求を棄却する。

五、訴訟費用は第一審原告太地茂と第一審被告との間においては第一、二審とも同第一審原告の負担とし、同第一審原告を除くその余の第一審原告と第一審被告との間においては第一、二審とも第一審被告の負担とする。

この判決中金員支払を命じた部分については仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、(当事者間に争のない事実) 原判決理由一、(原判決三九丁表二行目から四〇丁表五行目まで)と同一(但し原告山本とあるをいずれも原告山田と改める)であるからこれをここに引用する。(なお、以下第一審原告を単に原告と、第一審被告を単に会社という。)

二、(本件労働契約の法的性質) 1、本件労働契約締結当時の臨時工雇傭の実状についての判断は、原判決理由二、のうち原判決四〇丁表八行目「いずれも」から四三丁表終から三行目まで(但し以下(イ)(ロ)のとおり訂正する。)をここに引用する。

(イ)  原判決四〇丁裏三行目「同第九号証の一〇および一三」の次に「当審証人石内義彦の証言によって真正に成立したものと認められる乙第一五号証の一、二」と、同丁裏終から二行目「同藤川太朗」の次に「当審証人石内義彦(一部)」と、同四三丁表終から五行目「木村琢磨」の次に「当審証人石内義彦」とそれぞれ加入し、同四二丁裏末行の「森田」を「三井」に、「橋本」を「広田」にそれぞれ訂正する。

(ロ)  原判決四一丁裏三行目「差異もなく、」の次に「会社の臨時工は基幹臨時工とその他の者に分れ、後者は包装、運搬、清掃等附随の作業に従事していて、定年後の嘱託、一般の嘱託、臨時アルバイト、パートタイマーなどがこれに該当するところ、原告らは附随作業を行うものでなくいずれも基幹作業に従事するものとして雇用されたものであること、そして会社における臨時工の雇用状況は、昭和二五年朝鮮動乱を機として漸次増加し、昭和三一年以降はその採用年令の限度を次第に高めるに至り、昭和三七年三月までは基幹臨時工の数は増加の一途をたどり、同月現在において本工四万九、七五〇名に対し基幹臨時工一万九、四六〇名、その他の臨時工一、四七〇名となっていたこと、殊に昭和三三年から同三八年までは毎年相当多数の基幹臨時工を採用しており、その数は総工員数の平均三〇パーセントを占めていたこと、その間の景気変動は臨時工の雇用量変動には必ずしも明確な影響を与えている様子はなく、むしろ景気変動と関係なく右のような増加の一途を辿った傾向があること、一年以上継続して雇用された臨時工は試験を経て本工に登用することとなっており原告らはいずれも本工に登用されることを強く希望していたこと、」と加入し、同行「会社の」以下同四一丁裏六行目「達しており、」までを削り、同行「しかも」の次に「基幹臨時工はその定めた二か月の期間満了によって雇止めされた事例は見当らず自ら希望して退職するものの外」と加入する。

2、原審証人木村琢磨、当審証人石内義彦の各証言および弁論の全趣旨によれば会社が原告らを基幹臨時工として雇用するに至ったのは、経済界が安定していないため、景気の変動に備える必要があり、景気の変動による需給にあわせて雇用量の調整をはかる必要に出でたものであることが認められ、仕事の性格が臨時的であったり、季節による繁閑があるとか、附随作業であるため等の理由によるものではないこと、(会社が基幹臨時工の外に附随臨時工を雇用していることは前記のとおりである)が明らかである。

3、以上1、2認定にかかる事実関係からすると、原告らと会社との間の本件労働契約においては、契約期間を二か月と定めた契約書が取かわされてはいても、右期間満了時に右契約が終了すべきことは必ずしも当事者双方とも予期するところでなく、むしろ、会社としては景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じない限り契約の継続することを期待し、原告らとしても勿論引続き雇傭されることを期待していたものであって、実質においては当事者双方とも、期間の定めは一応あるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新せらるべき労働契約を締結する意思であったものと解することが相当と認められる。(臨時工に適用せらるべき成立に争いない乙第八号証の六の(イ)の臨時従業員就業規則中解雇の規定が設けられ、その解雇原因のうちに雇傭期間の満了が挙げられていることからしても十分推断できることである。)

三、そうだとすると本件各労働契約は、契約当初及びその後しばしば形式的に取交された契約書に記載された二か月の期間の満了する毎に終了することはなく、当然更新を重ねて、恰も期間の定なき契約と実質的に異らない状態で存続していたものといわなければならない。(右更新を妨ぐべき意思表示中会社側のするものを以下傭止めの意思表示と称する。)

四、(傭止めの意思表示の性質) 会社はこのような契約関係にある原告ら基幹臨時工に対して適用すべき臨時従業員、就業規則(以下臨就規と称する。)を定めており、これにもとづき原告らに対しそれぞれ将来労働契約を継続せしめず契約を終了させる趣旨の下に本件傭止めの意思を表示したこと前示のとおりであるから、これは実質上臨就規にいわゆる解雇の意思表示にあたるものと認めざるを得ない。

五、(臨就規の解雇基準)≪証拠省略≫によれば、臨時工に適用すべき臨就規には、原判決別紙記載の解雇事由が定められていて、このような場合解雇事由はこれに限定され、会社はこれに該当しなければ解雇しない趣旨に自ら解雇権を制限したものであるとみるべく、また理論上、右事由に形式的に該当するときでも、それを行使すること著しく苛酷にわたる等相当でないときは会社は解雇権を行使し得ないと解するのが相当である。

六、そこで右解雇基準に照らし、会社の主張する原告らの解雇理由(会社は雇止めと主張するが、「雇止め」は実質上臨就規の「解雇の意思表示」にあたると解すべきであることすでに説示のとおりである。)につき検討する。

(1)  (原告山田)原告山田に対して会社の主張する理由は(一)柳町工場において冷凍機製造部門に、二交替制をとる必要があり女子従業員は深夜作業に就労させることができず男子をもってこれに代えなければならなかったこと、(二)作業成績が低位であったこと、残業に非協力であったこと、適性において欠けるところがあり職場の評価も低いという点にあるが、右(一)の点についての当裁判所の判断は原判決理由三の(一)のうち原判決四五丁表一行目から同丁裏三行目まで(但し「原告山本恵子」とあるのを「原告山田秋子」と訂正し、「証人鈴木あや子の証言」の次に「当審証人高橋倉夫の証言」を加入する)と同一であるからここにこれを引用する。右(二)の点についての当裁判所の判断は原判決理由三の(一)のうち原判決四五丁裏四行目から同四六丁裏六行目「にあたるものとはいえず、」までを、その末尾を「にあたるものとはいえない。」と改めて引用し、同四七丁表一行目から同四八丁裏三行目「証拠もない」までを次のとおり附加訂正して引用する。同四七丁裏五行目「期待がかけられないかのごとくみられるが」とあるを「期待がかけられない旨の供述記載があるが」と改め、同四八丁表六行目末尾「そもそも」から同丁終から三行目「当を得ず」までを削り、「原告山田の抗議は理由がないものとはいえず、右供述および供述記載に現れたような事実があったとしても職場から排除しなければならない程の重大な性格の欠陥があり、勤務態度不良と評価することはできないし、」と加入する。

次に会社は原告山田が解雇予告手当を受領したことにより解雇を承諾した旨主張するところ、右受領の事実は、原審における同原告本人尋問の結果認められるところであるが、右本人尋問の結果によって認められる右手当受領時の状況およびその後の同原告の態度(この状況、態度についての当裁判所の認定は、原判決理由中原判決四八丁裏五行目「証人木村琢磨」以下四九丁裏五行目終りまでと同一であるからこれを引用する。)から判断すると、右解雇予告手当の受領によって原告山田が解雇に合意したとは到底認めることができないから、この手当受領の事実が解雇の承諾に当るとする会社の右主張は採用できない。

(2)  (原告大城)原告大城に対して会社の主張する傭止め理由は事務職員とする外ないところ、事務職員としての採用の見込のないこと、融和性に乏しいこと、生産計画上人員配置を調節する必要のあること、などであるが、原審における右原告本人尋問の結果によると同人は高校卒ではあるが事務職員となることを希望しないことを認め得る一方第一審被告の全立証によっても会社が何故に同原告を事務職員とする外ないと断ずるのか十分の理由を発見することができず又、仮りに同原告が融和性に乏しいとしてもそれだけの理由では臨就規にいう解雇基準に該当するものとなし難いのみならず、生産計画上特に原告大城を解雇せざるを得ない具体的な理由はこれを認め得る証拠がない。もっとも≪証拠省略≫によると原告大城の所属する第三製造部ラジオ部品課においては昭和三五年から三六年にかけて生産高に拘らず配置人員は少しづつ減少の傾向にあることがうかがわれるが、先に説示のとおり企業全体としては基幹臨時工の採用は増大しており、その雇用量は昭和三七年三月において最高の数字を示しているのであって、前記傾向は、同原告配置転換の事由としては兎も角、これをもって先の認定を覆えし、同原告傭止めの理由ありとすることはできない。したがって原告大城に対する傭止めの意思表示は効力がない。

(3)  (原告太地)同原告に対し会社の主張する傭止めの理由は著しい能率の低下と通勤補助金の不正受給であって、能率低下についての当裁判所の判断は原判決理由三の(三)のうち原判決五一丁表九行目「右仕事」から同五二丁裏終から三行目までと同一であるからこれをここに引用する。なお当審証人田崎功の証言によっては右認定を左右することはできない。通勤補助金不正受給については、≪証拠省略≫によれば、同原告が昭和三四年九月東京都葛飾区より川崎市内に転居し通勤補助金を受けられなくなってからも右転居の届をせず、長期間にわたり不正に通勤補助金を受領していたことが認められる。同原告本人の供述中「川崎市に転居後の同年一〇月分の給料の中に通勤補助金が入っていたので笛田班長に申出で、またその後も庶務係にその旨申出でてある。」という部分は≪証拠省略≫に照らして信用し難く、他に右認定を覆すに足るべき証拠はない。そして右不正受給が臨就規第八条第七号、第九条第八号第一〇号に該当することは、≪証拠省略≫によって明らかである。

原告太地は、「本件解雇は不当労働行為であり、また思想信条を理由とするものである。」と主張するので、この点を考えるに、会社柳町工場には本工組合の青年婦人部が主催する合唱サークルがあり原告ら臨時工もこれに加入しサークル活動に参加していて右サール活動を通じて臨時工が団結しようとし、労働者としての権利意識を高めようとする傾向のあったことおよび会社がこの活動をこころよく思っていなかったことは、≪証拠省略≫によって推認できるが、会社が右サークル活動を破壊しようとしたようなことはこれを認めることができず、むしろ右サークルの合唱練習ができなくなって、活動が行われなくなったのは、組合執行部から練習場所である事務所の使用を一時断わられたことに起因するものであること≪証拠省略≫によって認められるところである。

以上に認定したところを対比して検討すると会社の原告太地に対する傭止めは仕事の能力の著しい低下、通勤補助金不正受給等の解雇基準に該当する事由があったことを決定的な理由とするものであって、不当労働行為にあたり又は思想信条を理由とするもの、もしくは権利濫用にあたるものではないこと明らかであるから、原告太地に対する本件傭止めは有効である。

(4)  (原告佐多)原告佐多に対し会社の主張する理由は転勤拒否、通勤補助不正受給、経歴詐称であり、転勤拒否の点について当裁判所の判断は、次に附加するほか原判決理由三の(四)のうち原判決五四丁表六行目末尾「会社が」から同五五丁裏終から三行目「証拠がない」までと同一であるから、これをここに引用する、しかしながら原審証人小木曽義正の証言によると「配置転換を業務命令だと原告佐多に話したのであるが同原告が配置転換の勧告を単に相談しているだけのように考えると困るからそう言ったまでであって、同原告の強い反発にあい右配置転換の勧告を会社の方でとり止めた」ことが認められ、(≪証拠省略≫によると、配置転換を本人が承諾すれば改めて業務命令の通知に及ぶものであることが認められる)原告佐多の右勧告に対する態度は穏当でなかったとはいえ、発せられた業務命令に違反したものとすることはできないし、会社が自ら配置転換勧告をとりやめながらこれに従わなかったことを傭止めの理由とすることは許されない。

経歴詐称および通勤手当不正受給の点についての当裁判所の判断は原判決理由三の(四)のうち原判決五六丁表六行目から同五八丁表終から二行目までと同一であるからこれをここに引する。

(5)  (原告近藤)原告近藤に対し会社の主張する理由は、持物点検拒否および契約更新手続の拒否であるが、持物点検拒否の点についての当裁判所の判断は原判決理由三の(五)のうち原判決五八丁裏二行目「証人藤川太朗の証言」から同六一丁裏二行目「できない」までと同一であるからこれをここに引用する。契約更新手続の拒否の点は前示のとおり同原告が、持物点検拒否に関連して事実顛末書の提出を求められてこれを拒否したため藤川課長から反省を求める意味で従前のとおりの二か月を契約期間とするものでない一〇日を契約期間とする契約をするように求められたのでこれを拒否したものであること、すでに認定したとおり二か月毎の契約更新は双方から特段の意思表示がなければ当然期間を含めてその効力を生じ、書類上の手続はこれに伴う単なる形式と見るべきものであること等に鑑みれば、右手続拒否があったからといってこれをもってただちに解雇事由があると断ずることはできない。したがって同原告に対する会社の傭止めは臨就規の解雇基準に該当する事由が存在せず、その効力はない。

(6)  (原告三井)原告三井に対し会社の主張する理由は会社の定めた臨時工三年傭止め制の該当者であること、会社に対し不満の多いこと、作業能力、出勤率の劣ること、本工採用試験に不合格であったことであるが、三年傭止め制についての当裁判所の判断は次に附加する外、原判決理由三の(六)のうち原判決六一丁裏終から二行目「証人梅津正隆の証言」から同六二丁裏終から三行目「証拠はない。」までと同一であるからこれをここに引用する。原判決六一丁裏終から二行目証人梅津正隆の前に当審証人石内義彦の証言(一部)を加入する。しかして、前記認定のような契約関係にある原告三井に対して、同原告の入社後相当年月を経過した昭和三七年になって、同原告の同意なしに「臨時工は三年以上勤続を認めない」旨の方針を定めて同原告にこれを通告したとしても、これが同原告と会社との間の労働契約の内容となって同原告を拘束するいわれはないから、同原告らがこのような会社の方針に反対するのも当然であって、その反対意思表明の場所と時期に不穏当な点はあっても、同原告に右三年傭止め制を適用し、または右反対の言動に不穏当な点があったことをとらえて本件傭止の理由とすることは許されない。

次に会社に対する不満、作業能力、出勤率の劣ることの点についての当裁判所の判断は次に附加する外、原判決理由三の(六)のうち原判決六三丁表終から二行目「証人渡辺深雪」から同六五丁表一行目「証拠はなく、」までと同一であるからこれをここに引用する。トランジスター工場第二製造課従業員中畜膿症や神経痛に罹患するものは少くなく、これがため同原告が右職場の環境に不満をもらしたからといってこれが臨就規第八条第五号ないし第七号に該当すると解することは酷であり、また本工登用試験に不合格であってもそれが直ちに臨就規の定めた解雇基準に該当はしないのみならず他にこれに該当する事実は認められないから、同原告に対する会社の傭止めは効力がない。

(7)  (原告広田)原告広田に対し会社の主張する理由は、作業成績不良および東芝商事への転勤拒否である。ところで、作業成績不良の点については、≪証拠省略≫によれば、同原告は製造部第二製造課に勤務し高周波トランジスターの測定検査を担当し、二年半後ドリフト型トランジスター一・五メガサイクルの測定検査に従事していたことが認められるが、右各証言中会社の主張に添うその他の供述は、同原告が不良品を出した時期、数量、程度の点につき必ずしも明らかでなく、同原告の成績判定の方法の点についても≪証拠省略≫に照らすと果して適確に行われたかどうかにつき十分の心証を得難いのみならず、また居眠りや雑談をしていた等の点も、≪証拠省略≫により認め得べき同原告の作業が四人同時に行うものであることに徴すればその程度において作業成績に影響ある程のものとは考えられず、結局同原告の成績不良が臨就規に定められた解雇基準の何れかに該当するものと断定することはできない。

また東芝商事に転出するようにとの会社の配慮を拒否した事実があってもこれをもって解雇基準に該当するものとすることはできないことは多言を要しない。

したがって同人に対する傭止めは効力がない。

七、以上認定のとおりであるから、原告太地と第一審被告(会社)との間の労働契約は昭和三五年一二月三一日をもって終了し、同原告は会社に対し労働契約上の権利を失ったものといわねばならないが、原告太地を除くその余の原告らは依然会社に対し労働契約上の権利を有するものと解するほかなく、従って会社に対し未払賃金があればこれを請求する権利がある。しかして同原告を除くその余の原告らは会社に対し昭和四三年八月三一日現在において一時金を含む賃金として別紙賃金表(三)の(A)欄記載の未払賃金の請求権があり、同年九月一日以降毎月二六日に別紙賃金表(四)の(A)欄記載の金員の請求権があると主張するところ、同年八月三一日現在の未払賃金の計算関係については原告山田、同近藤の請求分に関しては争がなく、右両原告と原告太地を除くその余の原告の請求分は別紙賃金表(三)の(B)欄記載の限度では当事者に争がないが、右(B)欄記載の限度を超える右原告らの請求については立証がない。原告太地を除くその余の原告らの同年九月一日以降の賃金については、それが毎月二六日支払であることに当事者間争がなく、同原告らの一か月の稼働日数は少くとも二二日であることについては会社において明らかに争わないから同原告らは会社の認める別紙賃金表(四)の(B)欄記載の日当の二二日分、すなわち同表の(C)欄記載の金員をその在職中退職に至るまで毎月二六日に請求することができ且つ将来の給付にあたる部分(原告らの請求は「復職に至るまで」であるが復職とは職場復帰の意味と解される)も本訴で請求すべき利益があるものというべく、同原告らの請求(別紙賃金表(四)の(A)欄記載)中この限度を超えた部分は立証がなくこれを認容することができない。

よって原告太地の請求を棄却した原判決は相当であり同原告の控訴および当審における拡張請求は理由なくこれを棄却すべきであるが、原告広田の本件控訴は理由があり、またその拡張請求は前認定の限度で理由があるのでこれを認容しその余を棄却すべく、また、原告山田、同大城、同佐多、同三井、同近藤に対する第一審被告の控訴はいずれも理由なくこれを棄却すべく右原告ら五名の附帯控訴は当審で拡張請求を認容された限度で理由があるが、その余の附帯控訴は理由なきものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九六条、第九二条、第九三条、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用の上主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川添利起 裁判官 荒木大任 裁判官 田尾桃二)

<以下省略>

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